31章 姉の仇は今尚も
「で? どういう経緯なの、清海」
「迷惑かけた分、きっちり喋ってもらいましょうか?」
カースさんの住んでる屋敷の優雅な内装にも美紀と鈴実は目もくれずに問う。
二人にはお屋敷の大きさとか、気にならないのかな。大豪邸並みかそれ以上なのに。
私はそっちに気をとられていたいです。許してください、鈴実。怒りをどうか鎮めてください。
「な、何から言えば良いの?」
いろいろあったからなあ。鈴実怖い。
レイと会ってから魔法がいきなり発動したり、カースさん救出にいったけど本当の黒幕は捕まらなかったし。鈴実怖い。
ガーディアとミレーネさんとも会ったり、この国に来てから皆とはぐれて散々だったし。鈴実は怖い。
レイって最初はすごく威圧感あったしね。今はもうそう思うこともないけど。鈴実は怖い。
チラッと見たらレイは私に目でお前のことなんて知ったこっちゃないと言っていた。鈴実が怖い、から誰か助けて!
目で靖に救助信号を送る。顔ごと逸らされた。そんなっ、悪ぃ無理ーなんて言わないでよ!
美紀は鈴実側についてるからそもそも無理だし、レリは私が必死で見てもウィンク返すだけだしーっ。
キュラは、皆が和睦を深めたらしい此処数日の間は行方不明だった私ともそんなに会話してないからなあ。
正直なところ信号を送っても困るだろうなあ。怒ってる鈴実をなだめるのは初見さんじゃまず無理だし。
最初に助けを求めたレイに至っては、言うまでもなく。レイとのほうがキュラより付き合い長いんだけどね……うん。
「そうね、まずカースさんのことかしら。何処で会ったのよ」
「私たちが指定された場所に向かったものの、約束の時間が過ぎても現れなかった」
「それがどうして、迷子になった清海と一緒にいるわけ?」
うーん。私は天上を仰いだ。考えるつもりが、ついつい内装に注目してしまった。
よくある豪華なのじゃなくて、カースさんの屋敷ってモノクロとかセピアで統一されてるんだよね。
それでいてデザインが良いみたい。目を奪われるくらいで実際、靖とレリも入った瞬間うおーとかすごいとか言ってたし。
と、それは置いといてー。
「えっとね、事の発端は……皆とはぐれちゃった時からだから」
私、美紀や鈴実ほど話を整理するのは得意じゃないんだよー。
レイは何も言わずカースさんを奥の部屋へ連れて行く。
今いる部屋はリビングみたいなところかな? 話と関係ないけど。
「清海ちゃん、話すのは断片的で良いからね」
そう言ってキュラはにこっとする。その笑顔に、安堵する気持ちをもらった。
……そっか。それなら、わざわざまとめなくても良いならいいや。
記憶力にはちょっとだけ自信があるから。でも、いらない所は省略しないとね。
「皆とはぐれた後にね、えーと闇通り、かな? そこでいろいろあって、カースさんが捕らえられてることを知ったの」
「で、清海はあいつと一緒にあのじーさんを取り返しに行ったと」
靖が頷きながら口を挟む。まあ、レイと一緒なのは帰りだけだったけど、そういうことにしとこう。
後でレイとカースさんにも口裏を合わせてくれるように頼まなきゃ。
「うん。それで途中狼、じゃなくて火だるまの魔獣と遭遇して。まあ一緒に目的地まで行くことになったんだけど」
ここでキュラが口をはさんだ。目をパチクリさせてすごく驚いてる。変なこと言ったかな?
「魔獣? それってスカウレットウェッティじゃ」
スカウレットウェッティ? 何それ。ガーディアのこと?
「何なの、そのスカウレットとかいうの」
レリがキュラの話に口をはさんだ。うん、私もそれが何なのか気になる。。
「炎の精霊とも言われる、火属性の魔獣だよ。まあ他に氷属性の魔獣もいるけど」
「もしかして炎のブレスで瞬時に燃やし尽くすとか?」
キュラが首を縦に振る。でも私はガーディアって氷属性だと思うんだけどな。指輪にも氷とか彫ってあったし。
「まあ、その話は置いておきましょう。続きは?」
「目的地の屋敷が爆発で吹っ飛んでその後、魔物っぽいのに遭遇して落下してー」
しーん。皆、押し黙った。何なの皆して。
沈黙のなか靖が口を開く。
「お前、よく、平気だったな」
普通そんなにでかそうな爆風に巻きこまれてピンピンしてられるかと靖が呆れ顔で言う。
「爆発には巻きこまれてないよ。レイが屋敷から私を放り投げたから」
レリがポカンとした顔で長い石化を解く一言を呟いた。
「は? 何それ。冗談でも言ってる?」
信じられないと皆目を丸くしてる。そりゃそうだよね、私もそうだったもん。
「彼が清海ちゃんを……?」
鈴実と美紀はすぐさま数学の世界へと旅立っていた。
二人で学校じゃ習ってもおない計算式を使ってどれくらいで私を投げられるのか算出してる。
頭良いなあ2人とも。またさっきとは違う意味で静寂。レイって握力どれくらいあるんだろうなー。
あ、握力と投げ飛ばす力は違うのかな。重力の乗せ方がうまいんだよきっと。多分。
「それで、落下した所が大木の太い幹の上で」
「よく生きてたね」
あの芸能人よりもすごいんじゃない、とレリが言う。まあ普通じゃ生きてないかも。
「レイのお姉さんの幽霊と会ってそれで怪我を治してもらって」
「ちょっと待って。死者にそんな力有りはしないわ。逆ならわかるけど」
話にストップがかけられた。矛盾点をついてきたのは鈴実。
「あ、やっぱり? 霊に関してはプロ並みの鈴実もそう言うんだ」
ホントにミレーネさんって何なのかな?
ミレーネさーん。……あれ? さっきから何も言ってこない。疲れてるのかな?
「今は置いておくわ。問題は、なさそうだし」
私の顔をよーく見て鈴実はそう判断をくだした。顔を見てわかるあたりがすごい。
「それで治したあとはどうなったんだ?」
「また山を這いあがって屋敷のあった所にいってみたらそこは焼け野原だったんだけど」
私は一度話をくぎった。隠し穴みたいなのから地下へ降りたんだよね。
「隠し穴があって、そこから地下へ行って何事もなくカースさんを見つけたの。後は帰るだけ」
でも道を歩いてたら魔物の死体とかあったんだよね。怖くてみないようにしてたけど。
あれってきっとレイが切り捨てたんだろうなぁ。容赦なく飛来してきたら。
「それで、終り」
「なんだ、何もでなかったのかー」
出た! 靖のモンスター好きの血が。ホント好きだよねえ、こっちの気も知らないで。
まあゲームに出て来るような魔物を想像してたんだろうけど実物は可愛げもなかったよ。
「多分レイが先回りしてたからその時に始末してたんだよ」
話が終ったちょうど良い時にレイが戻ってきてつかつかとキュラに近づいた。
「お前は」
『ヒュッ』
レイが何か言おうとしたら黒いような物体が目に映った。
次の瞬間レイが剣を抜いてキュラの姿が消えていた。一瞬何が起こったのか理解できなかった。
「あっぶねーな! 何すんだ!」
靖がレイに怒鳴る。危うく剣先が靖を切裂くところだったから。レイは靖を相手にしなかった。
レイの首筋から血が流れた。レイは出血を抑えることもせず天井を睨んでいる。
そこにいたのはあの時死んだはずの、金髪に赤い瞳の男の人。……生きてたの? あれだけの魔法を受けても。
「ルネス」
レイはいつでも攻撃できるように剣を構えていた。レイの眼光はいままでにない程鋭く殺気が強かった。
「……っそ、放せ!」
「この皇子には用があってね」
この人が黒幕? 赤い瞳はレイと同様鋭いけど殺気はない。
でも、たったそれだけでも威圧感は充分過ぎた。
丁寧な物言いの中にも凄みがある。キュラがジタバタもがいたけど効果はなかった。
いきなりルネスの背後に黒い穴が開いてルネスはそこへ消えた。
「姉さんの仇っ」
レイが呟いた。ミレーネさんの仇、それって……つまり?
「え……なんで私もぉ──!?」
気づけば私はレイに捕まれていてあの穴の中。嘘ー!? きいてないっ!
「マジだったな、あの話」
下から靖が見て言ったけどほかの皆は唖然として声がでなかった。
『シュン』
その直後に穴が閉ざされてしまって私はレイに情けない格好で運ばれることに。扱いがひどいよ。
「また、皆とはぐれちゃった」
ようやく再会できたと思ったら今度は知らない場所に入りこんじゃったし。
「生きてるだけマシだと思っておけ」
首筋から血を流すレイが言うと妙に説得力があった。
……本当に子供なのかな、レイって。なんかもう、悟りの領域にはいってるんじゃ。
サバよんでるっていうんだっけこういうの。まさしくレイにあう言葉だよね。
暗い穴の中を抜けると霧の中だった。数瞬、二つの人影が目を掠めた。まさか、あの人は!
「ラーキさん!?」
……間違いない。いつもと違う黒装束だったからすぐわからなかったけど。でも、どうして。
予知能力があるからっていきなりここへ来れるはずがない。光奈の魔法陣でも、来れるのは国境線ギリギリだ。
でも、あれは間違いようもなくラーキさんだった。その確信が、希望を示し出す。
ラーキさんがいれば僕がこの人から逃げきれる可能性は十分にある。なんとか出来るんだ!
「放せっ、放せってば!」
何のつもりで僕をさらったの? 僕なんかをさらったところで価値なんてないのに。
「……煩いですね」
ゾクッと背中に悪寒が走った。こんなに威圧感があるのはどうして?
赤い瞳が僕を見据える。そして、命令する。
「静かにしていただこう」
『ドガッ!』
頭が割れそうなほど強く強打された。まさかこの人も……そこで僕の意識は途切れた。
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